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電気自動車(EV)の普及拡大のカギを握る「全固体電池」への期待

2021.03.05
電気自動車(EV)の普及拡大のカギを握る「全固体電池」への期待

次世代電池「全固体電池」とは

全固体電池は現在主流のリチウムイオン電池が正極と負極の間を液体電解質で満たしているのに対し、固体材料の電解質を採用している。固体に置き換えることで液漏れの心配がなくなるほか、揮発成分が少なくなり、発火しにくくなる。
 全固体電池の強みは安全性の高さに加え、急速充電性能の高さで、EVの普及を妨げている長時間充電を解消できることだ。また作動する温度範囲が広く耐久性も高い。低コスト化、設計がしやすいなどのメリットもある。
 種類は大きくバルク型と薄膜型に分けられる。バルク型は従来のリチウムイオン電池に構造が類似する。薄膜型は真空蒸着など気相法で薄膜を積層する。すでに実用化でき、従来に比べ長寿命化が実証されている。
 富士経済が予測した同電池の35年の世界市場は2兆円超。うち材料別の市場規模は硫化物系が1兆5775億円、酸化物系が4452億円、高分子系が755億円、錯体水素化物系が32億円と推定する。全固体電池は酸化物系と高分子系の市場が立ち上がっており、20年に計34億円が見込まれている。

全固体電池の各社の開発や実用化の状況

 全固体電池の実用化が、これまで進まなかった要因は、イオン伝導率の高い電解質が見つからなかったためと言われるが、11年にトヨタ自動車と東京工業大学は共同で正極と負極の間の電気が行き来しやすい固体電解質を発見し、全固体電池の注目度は高まっている。トヨタ自動車は20年代前半には全固体電池の実用化を目指している。
 自動車産業以外の実用化や先行投資も進んでいる。村田製作所は、小型で高容量の全固体電池を20年度下期から滋賀工場で月産10万個の量産を開始。いち早く補聴器に採用される見通しだ。マクセル(東京都港区)が開発した1円玉より小さいコイン形の全固体電池は、高耐熱性と長寿命でマイナス50~125度の幅広い温度領域の性能を発揮する。電池生産拠点の小野事業所(兵庫県小野市)の設備を増強。FA機器などの用途を想定し、21年内に本格的な量産化を予定する。
 石油需要が減少する石油精製会社の関心も高い。出光興産は全固体電池の主要材料となる固体電解質の量産実証設備を主力の千葉事業所(千葉県市原市)に建設し、21年4~6月をめどに稼働予定など先行投資が目立っている。

今後の展望と意欲的な設備投資

 「リチウムイオン電池向け材料『イオネル』の年間生産能力を30年までに約5000トン以上に引き上げる方針だ」と日本触媒の五嶋祐朗社長は全固体電池の需要を期待する。千葉県市川市の関連関連会社や欧州で設備投資を検討している。トヨタ自動車の電池の生産設備を手がけるジェイテクトの佐藤和弘社長は「(全固体電池の)早期量産化に協力したい」と語る。日本ガイシの大島卓社長は全固体電池「オールセラミックス電池」の進捗について「もう少し時間はかかるが、25年ごろには世の中に出さないと意味がない」と自動車メーカの実用化に対応させる考えだ。 大学の研究では東京工業大学と東北大学の研究グループが高出力型全固体電池の電極材料として期待する「リチウムニッケルマンガン複合酸化物」を使用し、電池容量を倍増できる研究成果をあげた。
 世界での全固体電池の主導争いが避けられない中、経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は車載向けの全固体電池の国際標準化戦略を策定する。EV需要の拡大に伴う本格普及期を見据え、日本が全固体電池の国際協調を主導。日系蓄電池メーカーの競争力強化を後押していく。

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